微分可能だけど導関数が不連続であるような関数はあるのか?

(「大学1年生のための数学入門」第5章「微分」の話題です。)

 微分可能な関数は直感的なイメージでは滑らかなグラフであり, その導関数はその滑らかさをグラフにしたものだから, どこかでいきなり上がったり下がったりしそうな感じはありません。だから, 微分可能な関数の導関数はどこでも連続であるような気がしますね。 でも, 実際は, 導関数が不連続になるような微分可能な関数もあるのです。その実例が杉浦光夫「解析入門I」(P89 例18)にあります。こういう関数です: 

\begin{eqnarray}f(x)=\begin{cases} x^2 \sin \frac{1}{x} \quad\quad (x\neq 0)\\ 0 \quad\quad\quad\quad (x=0) \end{cases}\end{eqnarray}

ちょっと変わっているのは, $x\neq0$と$x=0$で場合分けして定義されていることです。これは, $1/x$が式の中に入っているからです。「0での割り算」はNGですので, $1/x$が入った式は$x\neq0$でしか意味を持たないのです。だから$x=0$では別途定義しているわけです。

グラフはこんなかんじです↓。上下に振動するグラフですが, 原点に近づくほど小刻みになっていくかんじです。2つの放物線$y=x^2$と$y=-x^2$に挟まれた領域で振動しています。


 

 

ではこれの導関数を求めてみましょう。まず$x\neq0$では普通に「積の微分」や「合成関数の微分」の公式を使って, 

\begin{eqnarray}f'(x)=2x\sin\frac{1}{x}-\cos\frac{1}{x}\end{eqnarray}

となります。一方, $x=0$での微分係数(導関数の$x=0$での値)は, 

\begin{eqnarray}f'(0)=\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f(h)-f(0)}{h}=\lim_{h\rightarrow 0}h\sin\frac{1}{h}=0\end{eqnarray}

となります。このように, 全ての$x$で微分係数が定まるわけです。従って, この関数$f(x)$は全ての$x$で微分可能です。

ところが!! 式(2)では, $x$を0に近づけると, 右辺第二項の$\cos(1/x)$が$\pm 1$の間で振動するために, $f'(x)$は収束しません。一方, 式(3)では$f'(0)$は0になります。つまり, 導関数$f'(x)$は, $x$が左右から0に近づく時に, $x=0$での値に収束して行かないのです。つまり, $f'(x)$は不連続なのです。

この式(2)の$f'(x)$のグラフはこんなかんじ↓になります。


 原点に近づくにつれて激しく振動しています。これは$\cos(1/x)$のせいです。$x=0$に近づくと, これが激しく暴れまわって, ひとつの値に収束していかないのです。だから「不連続」なのです。

ここで「連続」とはグラフがつながっていることだ, とイメージしている人は多いでしょう。そのイメージでは, このグラフは原点付近でもつながっているような気がしませんか? でも原点付近ではあまりに激しく暴れているのだから, 実際に「つながっている」と言えるのかどうかは誰にもわかりません。そういう状況で「」つながっている」とはどういうことなのかも定かではありません。つまり, こういう関数ではそもそも「グラフが(見た感じで)つながっているか?」という問自体が無意味なのです。

では連続かどうか言えないんじゃない? と思うかもしれませんね。でもそうではないのです。数学では, 「連続」を 「グラフがつながっていること」とは定義せず, 「関数の極限がその値に一致すること」と定義します。ただし, それは多くの場合, 「グラフが(見た感じで)つながっている」という状況に対応します。しかし, 見た感じのグラフがイメージできない状況では, グラフのイメージに頼った理解を捨てて, 「関数の極限がその値に一致すること」という定義に戻って判定するのです。その判定によるならば, この関数$f'(x)$は$x=0$で不連続です。


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