数学入門: 第5章フィードバック

「ライブ講義 大学1年生のための数学入門」を使った学生・読者の反応と, それに対する著者からのフィードバックです。

合成関数の線型近似

たとえば$f(x)=\sqrt{1+x^2}$の線型近似を考えてみましょう。$f'(x)=x/\sqrt{1+x^2}$ですから, $f'(0)=0$であり, 従って, \[f(x)\fallingdotseq f(0)+f'(0)x \fallingdotseq 1\] となります。つまり定数関数"1"が答です。これはつまらないですね。

そこでこう考えましょう。$f(x)$を$g(x)=\sqrt{1+x}$と$h(x)=x^2$の合成関数$g(h(x))$とみなすのです。そして$g(x)$をまず線型近似すると, $g(x)\fallingdotseq 1+x/2$となります。これに$h(x)$を代入するのです。つまり, \[f(x)=g(h(x))\fallingdotseq 1+\frac{h(x)}{2} \fallingdotseq 1+\frac{x^2}{2}\] とするのです。

これはもはや「線型近似」ではありません。なぜなら線型近似とは関数を一次式で近似することであり, これは二次式だからです。しかし, この近似は以下に示すように, 定数関数"1"よりもずっと良い近似になっています:

  • $x=0.5$のとき, $f(x)=\sqrt{1+0.5^2}=1.118\cdots$, $f(x)\fallingdotseq 1+0.5^2/2=1.125$
  • $x=0.2$のとき, $f(x)=\sqrt{1+0.2^2}=1.0198\cdots$, $f(x)\fallingdotseq 1+0.2^2/2=1.02$

このように, 関数を合成関数と見て, 内側の関数が$x\fallingdotseq 0$で0に近い値をとるとわかれば(今回の例は$x^2$だからそれを満たします), 外側だけを線型近似してそれに内側の関数を代入することで, より精度の高い(高次の)近似式が得られるのです。

質問

  • $dx$は式に考慮し、$dx^2$は0とするというのは、そういうものとして飲み込むべきなのでしょうか?  

    ... それが微小量の定義だと考えてください。

  • 線形近似が具体的にどこまでの範囲、程度まで使えるのかなんとなく気になった。どのくらい簡単な関数でどの程度まで近似するかは個人の裁量に委ねられているのだろうか。 

    ... そこがセンスの問われるところです。現実的な課題に取り組むときには誤差やモデル化はつきものであり, 「厳密」は幻想ですから。

  • 今回は一次近似(線型近似)を行いましたが今後二次近似、三次近似...と増えていくことはあるのでしょうか、またそれらを用いる場面が出てくるのですか? 

    ... それがいずれ学ぶ「テーラー展開」です。

  • 何故数学者は$\Delta x$より$h$を好むのですか。あと何故高校では$h$で教えるのですか。 

    ... わかりませんが, $\Delta x$のようなイメージが付随しやすい記号を数学者は嫌うのかもしれません(イメージが足かせになる)。物理学者は$\Delta x$を好むように思います。高校数学は数学者がカリキュラムを作っているからだと思います。

学生のリアクションペーパーから

  • 傾きを求める行為は建築関係でない限り不要だろうと思って微分や積分は自分と無関係な感じがして退屈だったが、ぜんっっっっぜんそんなことはなく、むしろ日常に転がる数学そのものだった。 

  • 微分係数と導関数の違いがようやくわかった。$x$が定数であるか変数であるかだった。 

  • 私は$f'(x)$の定義を問われているのに$f'(a)$について答えていることがよくあるとわかった。  

  • 近似をしていいのか今まで疑問があったが、「関数を定義域いっぱいまで使うことはほとんどない」ということで納得した。  

  • 関数のグラフを書くときに、微分して増減などを調べたりして最初に計算をするのではなく、$x$=0のとき、$x$→∞のとき、$x$→-∞のときをまずイメージして、グラフの概形をイメージしてから書くようにすることを学んだ。そして、$x\fallingdotseq 0$のときにどのようなグラフと近似できるのか考えたり、指数を考慮して考えることで、より本当のグラフの形に近い、グラフの概形を書くことができることを学んだ。 

  • limの厳密な定義を考えた時、それは数学を専門に扱う人たちに向けたものになってしまう。数学に専念しない人は、hを微小量としてlimを外して考えると、使い勝手が良い微分係数、導関数を定義できる。  

  • 高校までの範囲で、何故そうなるのかについては全く考えず使っていた微分の公式の成り立ちがわかった。今まで微分の定義はあまり意識したことがなく、微分に対しても微分したら次数がひとつ下がるぐらいの認識でしかなかった。しかし、微分の定義に立ち返って見れば、今まで覚えるだけだった微分のルールも証明することができると分かり、定義の重要性を改めて認識した。  

  • 微分の公式は微分係数の定義ですべて説明できるということを学んだ。証明をするときは素直に定義に戻って考えていくことが大切だとわかったのでこれから証明問題を解くときは意識していきたい。  

  • 微分の定義というと、微分係数の式とそれを表すグラフでセットで覚えていた。しかし、実際は式だけで十分、むしろ式だけで抽象的なほうが汎用性が高いのだなと感じた。これからの大学の授業では抽象的なことがたくさん出てくると思うが、「はっきりしなくて嫌。」というのではなく、そのままを受け止めるということをなるべく意識していきたい。  

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